初夏のシーズンになると、淡いピンクや濃いピンク、白などのさまざまな種類の芍薬(シャクヤク)が生花店に並びます。
芍薬といえば、美しい女性の容姿や立ち振る舞いを表現したことわざ、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉が有名ですね。すらりと伸びた茎の先端に華麗な花を咲かせる芍薬は、美しい女性の立ち姿に例えられ、日本を代表する美しい花のひとつといわれてきました。
この記事では、古くから愛されている人気の芍薬の歴史をはじめ、咲き方の違いや主な品種、芍薬と牡丹の見分け方などについてご紹介します。
目次
芍薬の今に至るまで
日本への伝来
芍薬は中国北部、シベリア南東部、朝鮮半島などに自生し、中国では古くから栽培されていました。
平安時代に日本に伝来し、その根が漢方薬として珍重されるなど、国内で次第に栽培が広がったそうです。江戸時代には観賞用としても親しまれるようになり、今日まで多数の園芸品種がつくられてきました。
江戸時代以前の芍薬は、現在ほど大きな花ではなく花弁も一重に近いものだったようで、茶席での花、いけばなにも重用されていたという記録があります。
和芍薬と西洋芍薬
近代になってフランスやオランダに渡った芍薬の人気が高まり、品種改良が進んで、ヨーロッパを中心に花弁の多い大輪の「西洋芍薬」と呼ばれる花が広まりました。一方日本でも、江戸時代に熊本藩などで愛好され品種改良が進んだそうです。
日本で品種改良されたものを「和芍薬」といい、一重咲きといった比較的シンプルですっきりした花形のものが多いのに対し、西洋芍薬は八重咲き、半八重咲きなど弁数が多く香りの強いものが多くあります。現在の生花店で取り扱っている芍薬のほとんどが、西洋芍薬のタイプです。
開花させるのが難しかった芍薬
世界各地で品種の改良が進み、種類の豊富さだけではなく、日持ちのよさや扱いやすさもどんどんと向上していきました。
かつて芍薬は水あげの難しい花でした。数十年前は100本買っても20〜30本しか咲かず、芍薬の切り花をうまく開花させるには技術と経験が必要だったといいます。
茎の下の方だけを出して、花や葉を新聞紙などで包み、切り口を沸騰した湯に数秒つけてすぐ水につける、という「湯あげ」により水あげをしたそうです。
最近は多くの植物の水あげに適した薬品が開発されたこともあり、「特別な水あげ方法をしなくても過去の水あげの“秘密”の多くは不要になったかな」、と青山花茂のベテランデザイナーの方が話してくれました。
歴史の先人の方たちの品種改良の積み重ね。切り花として美しい花を鑑賞するための熱意。現代の生産者の方々の丹精。そんな努力のおかげで、私たちは今、素晴らしい芍薬を眺めることができているのですね。
よく似ている芍薬と牡丹の見分け方
芍薬によく似た花に牡丹があります。牡丹も芍薬と同様に、美しい女性の座った姿に例えられるほど、華やかで美しい花です。
では、皆さまはどちらが芍薬でどちらが牡丹か分かりますか?
どちらも弁数が多く大輪の花をつけるため、その違いがよく分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。正解は左が芍薬で、右が牡丹です。花を見る限りでは、花弁の形状がとてもよく似ているので見分けが難しいですね。
芍薬も牡丹も同じボタン科ボタン属ですが、芍薬は草本類、牡丹は木本類と異なるグループに属します。分かりやすくいうと、芍薬は草花で牡丹は花木です。
この2つを見分けるには、葉の違いと幹の質感の違いに注目すると判断しやすいと思います。
葉の違い
芍薬と牡丹は葉の形状に分かりやすい違いがあります。芍薬の葉は少し光沢があり、先に向かってほっそりとした形をしています。一方、牡丹の葉には光沢がなく、ギザギザとした切れ込みがあります。
幹の質感の違い
先ほどお話しした通り、芍薬は草花で、牡丹は花木です。芍薬は春になるとまっすぐ伸びた茎の先に花芽をつけますが、牡丹は横に広がりながら木の形を作り、枝から花芽が出てきます。
また、芍薬の高さは1mに満たないですが、牡丹は成長すると1m~2mくらいの高さになります。
これらのことから、花芽がついている幹が茎なのか木なのかでも簡単に見分けることができます。
よく見ると違いがある芍薬と牡丹。葉の違いと幹の質感の違いを知っていれば、見分けることができそうですね。街や公園などで花を見かけた際は、ご紹介した見分け方でどちらか判断してみてください。
芍薬の咲き方の種類と特徴
芍薬には、一重咲き、半八重咲き、八重咲きの品種があります。一重咲きの中には、金しべ咲きや翁(おきな)咲きという咲き方で区別されることもありますが、咲き方を厳密に区別するのは難しいですし、咲き始めと満開で花の開き方も変わってくるため、境界は曖昧です。
青山花茂のベテランデザイナーによると、生花店や市場などの現場では、複雑な分け方はせず、一重咲き、半八重咲き、八重咲きの3種類で区別しているのだそうです
一重咲き
花弁は8~18枚程度で、めしべを囲むように数多くのおしべがあります。
おしべが花弁のように変化する「弁化(べんか)」の度合いによって、金しべ咲き、翁咲き、冠咲き、手まり咲きと区別して呼ばれることがあります。
一重咲きは和の風情を感じる上品な印象の咲き方で、和芍薬はこのタイプが主です。
半八重咲き
一重咲きと同じく、めしべを囲むようにおしべが存在します。
一重咲きよりは花弁が多く、花の外側から内側に向かって花弁が小さくなるのが特徴です。
八重咲き
幾重にも重なる花弁が優雅で華やかな印象の八重咲き。バラ咲きと呼ばれるのもこのタイプです。
生花店に並ぶ芍薬は八重咲きのものが多く、青山花茂でもアレンジメントや花束によく使われています。
同じ芍薬でも、一重咲きと八重咲きで印象がかなり変わりますね。
そのほか流通期間にも微妙に違いがあり、一重咲きは3月下旬頃から、八重咲きは4月下旬頃から生花店に出回り始めます。少し早めに芍薬を楽しみたい場合は、一重咲きの品種を探してみるとよいのではないでしょうか。
切り花で流通する芍薬の主な品種
品種改良の進展により、さまざまな色や形が誕生した芍薬ですが、その人気の高さから、現在もたくさんの品種が世界中で開発されています。
現在、切り花で流通している主な品種をご紹介します。
ピンク系
ピンクの芍薬は種類が豊富で、代表的な品種のサラベルナールや、青みがかったピンクの富士、白っぽい淡いピンクのルーズベルトなど、さまざまな品種が存在します。
品種によって花弁の形にも違いがあり、サラベルナールや富士などはひらひらとしたフリルのような形をしていますが、ルーズベルトは1枚1枚の花弁が大きく、丸みがあるのが特徴です。
そのほか、ピンクドクターや古都の光といった品種もあります。
サラベルナールは流通量が多いため、生花店や市場で見かけることも多いでしょう。正式な品種名はサラベルナールですが、生花店や市場で働く関係者からはサラベルと略して呼ばれています。
濃いピンク系
深みのある濃いピンクのバンカーヒルと華燭の典は、色も大きさも咲き方も似ているため、見分けるのが難しい品種です。
メアリージョーリガーはこの中で最もピンクの発色が強い品種ですが、日が経つにつれて花色が徐々に淡いピンクへと変化していく特徴があります。
「華燭の典」という言葉は、結婚式を指す雅な表現のことで、華燭には「華やかで美しい灯火」という意味があるのだそうです。赤紫を帯びた明るいピンクの花色と、花弁がぎっしりと詰まった大輪の花姿にふさわしい品種名ですね。
白系
白い芍薬は同じ白でも微妙に色合いが異なり、白妙や白雪姫に比べてユニバースターはやや黄みがかった白に見えます。白い芍薬といっても、純白のものもあれば、ベージュやアイボリーに近い色味の品種もあります。
その他
鮮やかな真っ赤な花を咲かせるレッドレッドローズや、紅白の絞り模様が個性的な麒麟丸、芍薬と牡丹を交配して誕生した黄色い花色のバードゼラ。
生花店ではピンクや白の西洋芍薬を取り扱う機会が多いため、このような品種にはなかなか出会えないかもしれません。芍薬の品種は700種類以上あるといわれており、個性的な品種なども多数生産されています。
このように画像を見比べてみると、品種ごとの細かな違いに気づくと思います。青山花茂ではこの繊細な色の違いや、咲き方の違いなどによって品種を使いわけながらアレンジメントや花束を製作しています。一見すると同じような芍薬でも、他の花と合わせた時に出る雰囲気や色合いが変わってくるのです。そのため、同じ色味でも数種類の品種を仕入れ、仕上げたいイメージによって使い分けながら花合わせを行なっています。
生花店で芍薬を購入したらやってほしいこと
生花店で芍薬を購入した際に、ご自宅でやっていただきたいことがあります。それは芍薬のつぼみについている蜜を拭き取ること。
芍薬はつぼみの状態の時に、花から蜜を分泌します。実はこの蜜がつぼみが開くのを妨げてしまい、花が綺麗に咲かないことがあるのです。
本来、芍薬の最盛期は5月下旬〜6月上旬。最盛期の芍薬は自力で花を咲かせる力がありますが、時期はずれの芍薬はそれほど株に力がありません。蜜を拭くなどの手入れをしてあげないと、蜜の粘着力を打ち破って花を咲かせられない場合が多いです。
芍薬が綺麗に花を咲かせられるように、つぼみに蜜がついている場合は、水で丁寧に洗い流すか濡れた布巾でやさしく拭き取ってあげてください。
芍薬を咲かせるためには、蜜を拭き取ること以外にもさまざまなコツがあります。以下の記事では、芍薬を綺麗に咲かせる方法について詳しくご紹介しています。ぜひ試してみてください。
関連記事:「芍薬のつぼみを咲かせるには?芍薬の選び方とお手入れ方法、切り花の飾り方など」
芍薬を使ったフラワーギフト
青山花茂オンラインショップでは、芍薬(ピオニー)を使ったアレンジメントや花束などのフラワーギフトをご用意しています。限られた期間でのお取扱いですので、どうぞ時期を逃さずお楽しみください。
濃淡ピンクの大輪の芍薬を使ったアレンジメント
濃淡ピンクの大輪の芍薬(ピオニー)に、淡いピンクのカラー、白い八重咲きのユリやカンパニュラなど。初夏の訪れを感じさせるような配色の花々に、細やかなリーフでナチュラルな趣きを加えた、華やかで上品なデザインです。
芍薬をたっぷり束ねた可憐な印象のラウンドスタイルブーケ
濃いピンク、淡いピンクの2種類の芍薬(ピオニー)に、淡い紫のトルコキキョウと白いスプレーバラを合わせました。動きのあるリーフをあしらって、ナチュラルな雰囲気を添えています。
淡いピンクと白の芍薬の華やかでエレガントなアレンジメント
淡いピンクと白の大輪の芍薬(ピオニー)に、白いスプレーバラやカラー、ピンクのカンパニュラを合わせたアレンジメント。生花ならではの繊細な透明感のある花色合わせです。
濃いピンク、淡いピンク、白の3種の芍薬だけでお作りする花束
重なる花びらとみずみずしい花色の美しさに、思わず目を奪われる芍薬(ピオニー)の花束。ご希望の本数で、3種の花色を調和よくお作りします。
初夏だけがシーズンの、レアな花姿をお楽しみください
毎年大人気の芍薬。年々品種改良が進み、切り花としてお取扱いできる期間も長くなってきました。青山花茂では6月上旬頃までのお取扱いです。
この時期だけしか楽しめない初夏の花、芍薬をどうぞお楽しみください。
この記事の監修者
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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この記事を書いた人
青山花茂本店
東京・表参道にある宮内庁御用達の生花店です。花一輪一輪を大切にお作りしたアレンジメントや花束、名人達が丹精こめて育てた蘭鉢や花鉢など、最高品質のフラワーギフトを全国へお届けしています。1904年の創業時より培ってきた、花の知識やノウハウを綴っていきます。
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