つい先日、お客さまからつぼみのついた枝の画像とともに「次回の生け込みにコレ入れられますか?」との問い合わせがありました。
さて、こちらは何の枝でしょうか。
都心でも家の周り半径1キロにはほぼ必ずありますが、私の感覚ですと、つぼみ状態だと一般の方の正答率は10%以下の問題です。
いけばなだとこんな風に生けたりします。
そうです、木蓮(モクレン)の枝ですね。
白い花を咲かせる種を「白木蓮(ハクモクレン)」と言い、パープルピンクの花を咲かせる「紫木蓮(シモクレン)」や園芸種の「烏木蓮(カラスモクレン)」などがあり、街路樹とか庭木などによく使われてます。
応用編として…。木肌やつぼみの見た目が似ている辛夷(コブシ)とモクレンの見分けが難しいのですが、全ての花芽が上に向かっているのはモクレンで、花芽が上下左右ランダムに向いているのがコブシ、という見分け方が一番わかりやすいと思います。
少々話がずれましたが、「つぼみを生ける」という習慣や流儀がいけばなに存在するように、人は「つぼみ」に風情を感じるわけですよね。
これから花を咲かせようとする状態が次の季節の訪れを感じさせ、ひたむきで前向きな印象を抱かせる。そして何より、ビジュアル的にも可愛らしい(笑)。
「つぼみを愛でる」という意味では、ポピュラーなものですと赤芽柳(アカメヤナギ)と銀芽柳(ギンメヤナギ)もありますね。同じ種が、赤い皮に覆われたつぼみの時は「赤芽柳」と呼ばれ、赤い皮がむけて銀色のモフモフ(花穂)が出てきたら「銀芽柳」と呼ばれるわけです。
それ以外にも、この早春の季節に外を歩いていると、つぼみの状態で健気に春を待つ枝がたくさんあるはずです。梅(遅い品種)も桃もソメイヨシノも、もう既に花芽が膨らんできていることに気づく頃です。
先日、山を歩いていた時も、コブシやモクレンだけでなく、初夏に咲くツツジやホウノキなど、もう花芽を用意していました。
外で咲く花を見かけるのが少ないこの季節は、「つぼみを愛でる」のに絶好のシーズンなのです。
そのほか広い意味では、この季節の切り花であるチューリップやフリージアも、「開花直前」という状態のつぼみのシルエットは美しいですよね。
開花したトルコキキョウの脇枝についてるグリーンの小さな花を見たことはありませんか?あれは色づく前のつぼみです。
「このつぼみも咲きますか?」とお問い合わせいただくこともあります。しかし、切花にしてしまうとそこから色づいて咲くことはほぼありません。ですが、このつぼみの風情がお好きな方もいらっしゃるんですよね。
花弁や茎だけでなく、つぼみすら美しく見えてしまう筆者でした。
早春の季節、ぜひ皆さまも、春らしい「つぼみ」の姿をお楽しみください。
この記事を書いた人
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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