梅雨が明け、7月後半には全国各地で蓮が見頃を迎えました。
お寺の本堂などで、蓮の花の絵や、蓮の花をモチーフにした飾りなどを見かけるように、蓮が仏教では極楽の花とされてきたことは皆さまご存知の通りです。確かに、花の季節以外はその存在に気付きづらい沼地から、梅雨の時期にすっと花茎を出し、夏の日差しの中でとても綺麗で大きな一輪の花を咲かせる姿は、他の花々とは明らかに異質で、神秘を感じざるを得ません。
お盆の花としても知られる蓮の花が生花店で並ぶのは、7月上旬から8月中旬頃までです。
今回は、生産者リポートとともに、その蓮の豆知識を紹介します。
目次
実際に蓮の生産者さんの元へ行ってきました
梅雨真っ只中の7月上旬。古くから青山花茂とお付き合いのある、蓮の生産者さんを訪問してきました。
豊かな自然があふれる環境のなか、開けた場所にそれは広がっていました。
蓮の花の開花には1日6〜8時間以上の日照が必要なので、この時期に咲いている花はほとんどなく、見頃はまだまだ先とのことでした。ですが、一面に広がるライトグリーンの景色や、雨上がり後に大きな葉に雨粒を溜めている様子も見られました。
戦前から続く蓮農園。付近は湧き水が豊富で、水が大好きな蓮にふさわしい生育環境です。
「戦時中は食べるものがなくて、蓮根を掘りに極寒の1月に池に入って採ったんだ」と、まだまだ現役の先代の貴重なお話を伺うこともできました。
蓮の園芸品種は数十種類
蓮の品種は全国で数十種類あります。野菜や果物は種を植えるのが一般的ですが、蓮の場合は虫が別の品種の花粉を運んできてしまうため、種だと色々な品種が混ざっていることが多いのだそうです。純粋な品種を増やすには、種ではなく蓮根を分けてもらうというお話には驚きでした。
蓮は、無駄になる部位がない
生花を扱う仕事をしている私たちからすると、蓮はつくづく無駄になる部位がない植物(農産物)だなと感じます。これほどまでに使う部位が多い植物は他にあるでしょうか。どのように使われているのか生産者さんに伺ったお話や社内の知見を元に、まとめました。
蓮の花
日本国内では蓮の花はもっぱら観賞用として使用されますが、食用とする国も。蓮の花を国花としているベトナムでは、蓮の花と緑茶葉をブレンドした蓮茶が親しまれています。
また、中国でも同じように蓮茶と呼ばれ、こちらは花そのものを原料としたもののようです。蒸らしすぎるとても渋いため、わずかな時間で取り出すのがおすすめです。
蓮の根(レンコン)
みなさまがよく口にするレンコン、漢字で「蓮根」と書く通り、蓮根と蓮の花は同じ植物です。(実は知らなかったという人、私の周りにもたくさんいました)
しかし、花の観賞用の品種は細いため食用にはなりません。
蓮の生えている沼の下の泥には、蓮の地下茎である蓮根が横向きに広がっています。蓮は、種を通じて子孫を増やすこともできますし、この地下茎を通じても繁殖することができるのです。(蓮の根、と書いてレンコンですが、正確には地下茎であり、実際は地下茎からまた根が生えています。)
蓮の葉
蓮の葉は、水を弾く特殊な構造をしています。雨上がりの後は、雨水が蓮の葉の上に溜まってふるふると踊っていたり、滴り落ちる様子を見ることができます。
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この蓮の葉が水を弾くことを「ロータス効果」と呼び、これによって生育環境が泥の中であるにも関わらず、蓮の葉は常に綺麗な状態が維持されています。
日本ではお盆の時期に、迎え火や送り火の際、火を消すための水を蓮の葉に貯める風習もあります。また、蓮の葉でもち米を包み蒸したものや、蓮の葉にお供え物を乗せお皿代わりにして捧げる地域もあるようです。
いけばなの世界では、開いた蓮の葉と、開く前の若い「巻き葉」を使い、蓮池を表現しています。私たち生花店がいけばなのお教室に花を届ける時は、開いた蓮の葉と、巻き葉の両方を準備する必要があります。
ちなみに、巻き葉は成長過程にある状態なので、花や開いた葉よりも低くいけるのがいけばなの心得です。
独特の形をした花托や実
花が終わって花びらが落ちた後、たくさんの実を包んだ蜂の巣のようなグリーンの花托(かたく)が現れます。蓮の実の入った花托部分も、蓮台(れんだい・はすだい)と呼ばれ、その個性ある形状が魅力的なため、フラワーアレンジメントやいけばなで使用されます。
たくさん穴が空いている姿、どことなく蓮根に似ていませんか?茎を通じて蓮根と花がつながっているのがわかりますね。
「ハス」という名前も、この花托部分が蜂の巣のようだから、「ハチス」と呼ばれていたものが、ハスに転じたという説がありますね。
この花托や実にも薬効成分があるとされ、漢方の原料や食用で使用されています。
特に蓮の実については、滋養強壮作用があるとされ、中国ではポピュラーな食材だそうです。
また、古代ギリシャでは蓮の実を食べると記憶を忘れるとされたため(そのような効能はないそうですが)、現代の英語の慣用句には、夢見がちな人や怠けものを”lotus eater”とする表現があります。
西洋でも、蓮は古来から不思議な花として扱われていたことがわかりますね。
枯れた後も使える
季節の移り変わりを表現することの多いいけばなの世界では、晩夏や秋に蓮の枯れ葉や枯れ実を作品の素材として使うことも多くあり、実は青山花茂のいけばな事業部の倉庫には、常に枯れ蓮の葉と実がストックされています。
このように、花はもちろん根から実まで、そして枯れた後も、蓮は無駄になる部位のない花なのです。
蓮(ハス)と睡蓮(スイレン)の違い
名前も形も似ている「蓮」と「睡蓮」を見分けるのは、難しいですね。私もこの職業を始めるまではわかりませんでしたが、実はとても簡単です。
水面と花の距離が違う
花の咲く夏であれば、見分けはより簡単です。
蓮の花は、水面から1メートル以上高くまで花茎を伸ばし、高いところで花を開花させます。
一方の睡蓮の花は、ほぼ水面、もしくは水面よりちょっとだけ高いところで花を開花させます。
葉の形が違う
花の咲かない季節は、葉を見れば見分けられます。
円形のかたちで、花と同じように水面から距離があり表面にツヤがないのが蓮。光沢があり大きく切れ込みが入っていて水の上に浮くように葉がついているのが睡蓮です。
蓮の花はいつ咲く?見に行く前にチェックしたいこと
蓮の名所に訪れてみたものの、あまり咲いていないと思ったことはありませんでしょうか。
実は蓮の花には、午前中に咲いて午後にはしぼむ、という特性があります。これを3〜4日繰り替えし、その後散ってしまいます。
蓮の花が美しく咲くタイミングとは
満開の花を鑑賞するベストなタイミングは、以下の3つがあります。
- 時期は梅雨明け後(※地域によって多少前後ありますが7月中旬〜下旬頃です)
- 時間は午前中
- 開花してから2日目の蓮が一番美しくおすすめ
青山花茂のベテランスタッフによると、満開かつ美しく咲く蓮の花を鑑賞するには、開花2日目の朝7〜9時頃がおすすめ、とのことです。
3日間咲いたりしぼんだりを繰り返し、4日目には花びらをパラパラと落としてしまう、とても儚い蓮の花。8月に入ってからも、最盛期よりは少なくても、開花している花を見ることができます。ぜひシーズン中にその美しい花姿を楽しんでいただけたらと思います。
蓮の花には香りもある?!
蓮の花の香りは、香水やバスソルト、アロマオイルとして世界中で愛されていますね。
少し甘くてみずみずしさがあり、どことなく異国情緒を感じさせる香りです。
花にかなり近づかないと香りがしません。蓮池に訪れた際、もし近くに咲いている蓮の花がありましたら、ぜひ顔を近づけてみてください。
夏の季節限定で、蓮の花の関連商品も扱っています
蓮のいけばな花材
青山花茂本店いけばな事業部では、いけばなをなさる方のために、通常の生花店では手に入りにくい希少花材のセットをお届けしています。
この時期は、河骨(コウホネ)や蓮などのみずもの花材が並びます。
蓮のいけばな花材は例年、6月下旬から8月上旬までご用意していますが、販売中は盛夏期間で宅配便での鮮度保持が難しいため、東京都内23区のみへのお届けです。
その他にも蓮のいけばな花材をご用意しています。
詳しくは以下のリンクよりご覧ください。
蓮を使用したご供花アレンジメント
東京地方のお盆の入りは、毎年7月の中旬頃。記事の冒頭でも述べましたが、仏教では蓮の花は極楽浄土に咲く花とされてきました。お盆にご先祖さまをお迎えするのに、ふさわしい花。それが蓮なのです。
青山花茂本店ではお盆に飾るご供花として、蓮を使ったアレンジメントをご用意しています。わずかな期間の季節限定でのご用意となります。
仏教で極楽の花と尊重される蓮の花と、古来夏の野の花として親しまれた桔梗。白いユリと淡いグリーンのハイドランジアを合わせたアレンジメントです。
蓮と桔梗のアレンジメント(ご供花)
※こちらのアレンジメントのお取扱い期間:7月上旬から7月中旬まで
こちらは、白いユリ、紫のトルコキキョウ、青のリンドウに蓮の花と蒲(ガマ)の穂を添えたアレンジメントです。
蓮とガマのアレンジメント(ご供花)
※こちらのアレンジメントのお取扱い期間:7月上旬から7月中旬まで
どちらも、近年お求めになりにくい希少な花を使った、“伝統的な盆飾り”の趣あるこの時期だけの品物です。偲ぶ思いを込めて、どうぞお贈りください。
生育や収穫に手間がかかる蓮の花は、絶滅危惧種
蓮の花について、いろいろな視点からご紹介してきました。
そんな蓮の花も、農産物としては年々貴重さを増しています。実際、蓮の花を飾る需要も減ってきたことや、沼に入っての収穫が大変なこともあり、蓮の花や葉を切ってくださる生産者さんは減っているのが現状です。
そういった中で、生産量が限られる希少花材を、お客さまに安定的に届けるには、生産者さんとの連携が欠かせません。
池によっても開花時期が違いますし、何軒かの蓮農家さんと連携をして、品物をお届けしています。
青山花茂本店いけばな事業部では、蓮をはじめ睡蓮、河骨(コウホネ)、燕子花(カキツバタ)など、いけばなに欠かせない「みずもの」をご用意しています。普通の生花店で手に入らないものも、お尋ねいただければご用意があるかもしれません。どうぞお気軽にお問い合わせください。
青山花茂本店 いけばな事業部
電話:03-6433-9187
FAX:03-6433-9165
この記事の監修者
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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この記事を書いた人
青山花茂本店
東京・表参道にある宮内庁御用達の生花店です。花一輪一輪を大切にお作りしたアレンジメントや花束、名人達が丹精こめて育てた蘭鉢や花鉢など、最高品質のフラワーギフトを全国へお届けしています。1904年の創業時より培ってきた、花の知識やノウハウを綴っていきます。
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