夏の終わりが近づくと出回り始める花、ケイトウ(鶏頭)。少し花に詳しい方であればご存知のポピュラーな秋の花です。
文字通りニワトリの頭のようなグロテスクな形状の「トサカゲイトウ」や「クルメゲイトウ」の印象が強いのか、ケイトウを嫌いな方は嫌いで、この季節にアレンジメントを作る際に「ケイトウだけはNGで」というご注文も実はあります。でも同じケイトウにも可愛らしい種類もあり、色も多彩で日持ちもして、もっと評価されて良い花なのです。
今回は、ケイトウの種類や魅力について紹介していきます。
目次
公園などでよく見かけるケイトウ
ケイトウは、日本には野生種は存在せず、インドなどの熱帯アジア原産の植物です。平安時代以前に大陸から渡ったとされ、万葉集に「韓藍(カラアイ)」の名称で登場しています。
日本原産ではない植物ですが、日本の気候が生育に適するため、日本での品種改良が盛んで、世界で園芸品種や切り花品種として流通しているケイトウはほぼすべて日本で育種されたもののようです。
「ケイトウ」と聞いてグロテスクな「脳」のような姿を想像されるでしょうか?それともホウキのように縦に伸びたフサフサの姿を想像されるでしょうか?後者の「フサフサ」のケイトウはとてもカラフルで、公園に植えられているのをよく見かけます。
先述の通り日本の気候に適しているため育てやすく、鑑賞期間も長いため、公園や庭先で育てる園芸植物として広く支持されています。そういった意味でケイトウは、切り花としての流通よりも、鉢物や種苗での流通量の方が多いと思われます。
ケイトウには花びらがない
「花に見える部分は本当は花ではなく、隠れて小さい花が付いている」というパターンの植物は、アジサイやカラーなど、とても多いですが、ケイトウの花もそのタイプです。
ゴツゴツしたコブのようなトサカゲイトウも、フサフサした羽毛ゲイトウも、花に見えるのは茎の先が変形した「花序(かじょ)」(もしくは花穂)です。
トサカゲイトウで言えば、鶏の頭のような色づいた部分は「花序」で、その根元の「帯化」した部分に「花びらのない」小さな花がたくさん付いています。
ケイトウの大分類1:花序が「縦に伸びる」タイプ
ケイトウを大きく分類すると、花序が縦に伸びているタイプと、花序が平たく広がるタイプに分けることができます。
花序が縦に伸びているタイプは、ウモウゲイトウ・ヤリゲイトウ・ノゲイトウ(通称セロシア)などがあります。公園やテーマパークの花壇などに植えられるケイトウのうち、ほとんどがこの「ウモウゲイトウ」か「ヤリゲイトウ」ではないでしょうか。切り花としても、秋らしさを演出する花材として重宝されています。
ウモウゲイトウ(羽毛鶏頭)
そのモフモフな草姿・感触から「ウモウゲイトウ」と呼ばれ、「フサゲイトウ」という別名も。よく見ると、紐状の細かい花序が何本も集合して、フサフサしたシルエットを作っています。
さらに細長いシルエットのものを「ヤリゲイトウ」と呼びますが、切り花品種を仕入れている立場からすると、ウモウゲイトウとヤリゲイトウの境界線はかなり曖昧になってきおり、「尖っていたら“ヤリ”」程度の認識をされているように思います。
ノゲイトウ(通称:セロシア)
ノゲイトウ(通称:セロシア)は、指の太さほどのとても細い花序を縦長に伸ばす姿で、茎に動きがあり繊細なイメージのあるケイトウ。ウモウゲイトウ・ヤリゲイトウとは先祖が違うとされます。
ウモウゲイトウやヤリゲイトウと区別するため、切り花の業界では「セロシア」という呼称で流通していることが多い品物です。(ウモウゲイトウやヤリゲイトウはCelosia cristataの血が濃く、ノゲイトウは、Celosia argenteaという原種に近いイメージです。)
ケイトウの大分類2:花序が「平たく広がる」タイプ
どちらかと言えば爽やかな秋の印象を与える見た目の「花序が縦に伸びるケイトウ」に対して、「グロテスク」と言われがちなケイトウが、「花序が平たく広がるケイトウ」です。
茎の先端に近い成長点が「帯化」し、その上に鶏のトサカのような花序をつけます。園芸品種として育てられているのはあまり見かけず、切り花で流通することが多い品種群です。
トサカゲイトウ(鶏冠鶏頭)
成り立ちとしては諸説ありますが、本来は縦長に伸びるはずの茎の先端に近い成長点が帯化した変種を固定化した、といわれます。
確かにグロテスクな見た目ではあるものの、近年は、赤だけでなくピンク、オレンジ、イエロー、グリーン、など色も大きさもさまざまな品種が流通しており、使い方によってはアレンジ・花束などで重宝する秋の花です。
クルメゲイトウ(久留米鶏頭)
クルメゲイトウは、トサカゲイトウの花序がさらに増して球形になったタイプで、戦後になって作られた品種です。頭が大きく、帯化した茎の部分まで覆い隠されるほどです。こちらも色彩が豊富で、切り花ではさまざまな色が流通しています。
セッカゲイトウ(石化鶏頭)
セッカゲイトウは、トサカゲイトウの花序の根元の「帯化」部分がさらに肥大したことによって花序全体も大きくなった品種で、トサカゲイトウの進化系という感じ。
大きいものは花序が子供の顔ほども大きくなり、とてもインパクトがあります。大きすぎてアレンジや花束には使えませんが、活け込みなどで使用されています。
ケイトウの大分類3:その他のケイトウ
「ヒモゲイトウ」とも呼ばれるアマランサス
番外編ですが、アマランサスというヒユ科ヒユ属の花も、花の業界では「ヒモゲイトウ」と呼ばれ、ケイトウの一種と考える人もいます。
ケイトウも「ヒユ科ケイトウ属」なので近縁ではありますが、アマランサスは正確にはケイトウではありません。このアマランサス(ヒモゲイトウ)も、とても大きいので、大きな花瓶活けなどで使われます。
その他にも、ケイトウの名がつくものに「ハゲイトウ」と呼ばれる植物もありますが、こちらも「ヒユ科ヒユ属」でアマランサスの一種なので、ケイトウではないですね。
切り花としてのケイトウの魅力
ここまでケイトウのあれこれを紹介してきましたが、切り花としての魅力をまとめると、以下3点に集約されるでしょう。皆さまも、魅力溢れるケイトウを楽しんでみてください。
1. ボリュームが出せる
ウモウゲイトウもクルメゲイトウも、他の花に比べると、お値段はさほど高くないのに、ボリュームが出せる花です。特にウモウゲイトウは長さも幅もあるので、秋の季節に花束のシルエットを作る際に重宝されます。
2. 長持ち(日持ち)する
ケイトウは多少の暑さでも耐えることができる切り花で、残暑の時期でも安心感があります。
長持ちの理由には、花びらでなく「花序」であることも関係していそうです。
3. 色が豊富
多彩な色。これは品種改良の努力の賜物だと思われますが、赤・白・黄・橙・紫・ピンク・グリーンなど、とても多くの色の品種が流通しています。
どんな色の花束やアレンジメントを作るときも、ケイトウを合わせることができます。
ケイトウを使ったフラワーギフトのご紹介
花序の独特なかたちが長く親しまれてきたケイトウは、花束やアレンジメントに個性豊かに季節感を演出します。大切な方への贈り物におすすめの、青山花茂の上質なケイトウのフラワーギフトを一部ご紹介します。
秋らしい温かみのある暖色の花束
オレンジの大輪バラと黄色いスプレーバラ、淡いオレンジのトルコキキョウ。そこに秋ならではの濃いオレンジのケイトウ、グリーンのスプレーマムなどを加えて、華やかに季節感を演出している花束です。
和の風情漂う秋の花々のアレンジメント
ピンクのピンポンマム、赤いケイトウ、淡いブルーと白の複色リンドウ、淡いピンクのナデシコなど、秋の和の花々。ススキを中央に、ほどよくリーフもあしらって、品の良いにぎやかさに仕上げています。お月見のイメージを連想させる、日本画の秋の草花づくしのようなアレンジメントです。
クラシックな赤い花束
深みのある濃いピンクのダリアにスプレーバラ、赤いケイトウや実ものなど、落ち着いた赤色の花々にベージュのカーネーションが効果的なスポット。秋らしい花色使いに鮮やかなグリーンのリーフが明るさを添えた、大人びた花色のクラシックな印象の花束です。
秋の風情漂うケイトウをお楽しみください
ケイトウの構造や種類について、ご興味を持っていただけましたでしょうか。
種類によって大きく異なる特徴的な姿が興味深い花ですよね。さまざまな形の秋の風情が漂うケイトウを、ぜひお楽しみください。
この記事を書いた人
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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