四季に恵まれた日本では、季節が移り変わるたび、さまざまな樹木の姿を見ることができますが、秋冬の季節と言えばどんなものを思い浮かべるでしょうか。秋も早い頃だと金木犀(キンモクセイ)が豊かな香りを放ち、栗や柿などの果樹が実をつけますね。やがて晩秋にかけては楓(カエデ)、銀杏(イチョウ)などの落葉樹が色づき葉を落とすことは、皆さんもよくご存知かと思います。
上記で述べたもの以外に、青山花茂ではさまざまな枝ものが揃います。以前にドウダンツツジやスモークツリーなどの枝もの、赤い実にフォーカスした記事をお届けしましたが、今回は秋から冬の時期に楽しめる枝ものを幅広くご紹介します。
秋に紅葉するのはなぜ?
秋の風物詩、紅葉。日本ではポピュラーですが、地球上で紅葉が楽しめるのは温帯地域だけと言われています。また、紅葉と聞くと誰もが連想する代表的な樹木の楓(カエデ)は、世界の60%〜75%は日本に分布しているとのデータには驚きです。
秋の季節に樹木の葉が色づくことを「紅葉する」と表現していますが、細かくは葉の色により名称が異なります。赤く色づくことを紅葉(こうよう)、黄色く色づくことを黄葉(おうよう)、茶色く色づくことを褐葉(かつよう)とそれぞれ呼ばれています。
そもそも樹木は、なぜ秋になると葉が赤や黄色に色づくのでしょう。以下に紅葉が起きるメカニズムを簡単にご説明します。
紅葉が起こる条件
紅葉が起こるには、以下の2つが必要です。
- 最低気温が8℃前後より低くなる
- 日照時間が短くなる
これらの条件が揃うと紅葉が起きるのですが、色づくのは葉に含まれる色素が深く関係しています。
葉に含まれる色素の変化が起きる
葉にはクロロフィル(葉緑素)という色素が含まれています。この色素が太陽光を吸収し養分を作る活動が光合成です。この他に赤く色づく葉には、アントシアニン(赤い色)、黄色く色づく葉にはカロテノイド(黄色・橙色)という色素がそれぞれ含まれています。
秋になると気温が低く且つ日差しが弱くなり、光合成によって得られる栄養分が少なくなります。そのため葉の中にあったデンプンやタンパク質が減り、緑色の元であるクロロフィルが分解されます。ここから黄葉する場合と紅葉する場合のメカニズムは微妙に異なります。
黄葉は、クロロフィルが消えることで、黄色の色素であるカロテノイドが見えて葉が黄色くなるという仕組み。一方で紅葉は、緑色の元であるクロロフィルが分解される過程で赤のアントシアニンが増えることで赤くなります。
アントシアニンが含まれるカエデは、黄葉と紅葉の双方の過程を経ることで、緑色から黄色、橙色から赤へ徐々に色づいていきます。ドウダンツツジやナナカマドもそのように変化していく落葉樹です。イチョウが赤く色づくことがないのは、葉でアントシアニンが生成されないからなのです。
紅葉したあと、落葉するのはなぜ?
先にも述べたように秋が深まると気温が低くなり、太陽の光も弱まり、日照時間も減りますよね。こうして冬は光合成で生成できる養分が減るので、樹木全体でのエネルギーの消費も減らす必要があります。そこで樹木は、葉の蒸散作用などでのエネルギー消費を防ぐため、葉へ届ける養分や水分を遮断して葉を落としていることがわかっています。しかも葉を落とす過程で、葉に含まれるクロロフィルを幹に向けて送って備蓄しているそうです。紅葉や黄葉は、落葉という冬支度の過程におけるクロロフィルの減少をきっかけに起きるのですね。
すべての葉を落として枯れ木のようになった樹木は、春になると一斉に淡いグリーンの新葉を芽吹き、夏の強い日差しを受けてしっかりと養分を蓄え、秋に紅葉・落葉して冬支度をする…というサイクルを繰り返しているのですね。このように辿ってみると樹木の生命力はもとより、自然の摂理には舌を巻くばかりです。
次の章からは、紅葉する枝もの・シルエットを楽しむ枝もの・実を楽しむ枝もの、と3つに分けて、生花店の視点でその代表的なものをご紹介していきます。
秋から冬に紅葉する枝もの
紅葉する枝ものは本当にたくさんありますが、私たちがフラワーデザインや活けこみで使うことの多い、比較的扱いやすい枝ものをピックアップしました。「紅葉物(こうようもの)」(業界ではそう呼びます)を使う際には、葉が散ることの覚悟が必要ではありますが、手軽に秋の雰囲気を演出しやすいアイテムでもあります。
紅葉木苺(キイチゴ)
シーズン:紅葉は10月中旬〜11月中旬
赤子の手の平のような姿から「ベビーハンズ」という商品名でも流通しているキイチゴの葉は、品種名を「カジイチゴ」という日本全国の野山で自生する樹木です。いけばなでも古くから使用される知名度の高い枝で、時期としてはまだ青い初夏の頃から盛んに出荷されます。
グリーンの印象が強いかもしれませんが、10月になると色づいたものが出回り、フラワーアレンジや活け込みなどでよく使用されます。
紅葉雪柳(ユキヤナギ)
シーズン:紅葉は10月上旬〜11月上旬
雪柳は、春は白く可憐な花を、初夏から夏は青々しい葉を、そして秋は紅葉を楽しむことができるので、どの生花店でもよく見かけるポピュラーな花材です。
紅葉した葉は、早めに散るのが難点ではありますが、フラワーアレンジで秋を表現する際によく使用されるのはもちろん、枝の曲線が程よいので、花瓶に束ねていれるだけで雰囲気を作れるオススメの花材です。
七竈(ナナカマド)
シーズン:紅葉は10月
いけばな業界では雷電(ライデン)とも呼ばれ、まだ青い夏の頃から使われる花材です。秋になると里山では小さな赤い実をたわわにつける姿をよく見かけます。紅葉の進み具合によって、黄色から深い赤などさまざまに楽しめる枝ものです。
ナナカマドの名前の由来は「とても燃えにくく、7回かまどにくべても焼け残るため」という説があります。海外では火除けの木として親しまれています。
紅葉ヒペリカム
シーズン:紅葉は9月下旬〜11月上旬
ヒペリカムと言えば、年を通して入手可能な実ものとしての知名度の方が高いかもしれません。「紅葉ヒペリカム」は、同じヒペリカムの葉を鑑賞するものとして、秋に流通します。大きな活け込みに使用できるほどの長さではありませんが、紅葉する枝ものの中では、比較的日持ちが良いことから、和のテイストだけではなく、洋風のフラワーアレンジでも重宝される花材です。
紅葉ドウダンツツジ
シーズン:紅葉は10月中旬〜11月上旬
みなさまご存知のドウダンツツジが紅葉したもの。緑から黄色、赤色と次第に紅葉して行きます。枝ぶりの良さと日持ちの良さから大人気のドウダンツツジですが、紅葉したものはすぐ散ってしまうので、取扱いに注意が必要です。私たちも、長期間の活け込みにはあまり使用しません。
初夏の青々としたドウダンツツジについて、以下の記事で詳しく説明しています。こちらもご覧ください。
参照:「ドウダンツツジはインテリアグリーンに最適な枝もの 特徴やお手入れの方法を説明します」
シルエットを楽しむ枝もの(葉も実もない)
秋から冬にかけて出会える枝ものは、紅葉したものだけではありません。葉も実もないけれど、シルエットが個性的で冬への移り変わりを表現できる枝ものを以下で一部ご紹介します。
パンパスグラス
シーズン:8月中旬〜9月上旬
南米のパンパスと呼ばれる草原地帯に生えることから、そのながついたようです。和名はシロガネヨシ。見た目がススキと重なることから間違えられがちですが、ボリュームのある花穂に注目してみると簡単に見分けることができます。
9月に流通し、乾燥させても長持ちすることから、晩秋以降はドライフラワーとしても入手可能。長いものでは2mになりインパクトのある花材なので、秋の装飾にはよく使用される花材です。
ドラゴン柳
シーズン:10月〜12月
秋の季節、ホテルや商業施設のエントランスなどでよく使われているドラゴン柳。くねくねとした枝ぶりが美しく、日持ちもするので、私たちも活けこみに重宝します。葉のない状態で使うのが通例ですが、初秋に入荷するドラゴン柳には葉がついていることもしばしばです。どちらかというと活けるのは難しくない枝ものですので、短めの枝を購入してご自宅で飾るのもオススメです。
石化柳(セッカヤナギ)
シーズン:10月〜12月
「せきか」ではなく「せっか」と読みます。植物学的には「帯化」と呼ばれ、成長点で異常が生じたことによって茎が平坦な形状になる状態のこと。石化する花材は多くありますが、いけばなの世界でも古くから使用され、一般に最も知られているのが石化柳かもしれません。
ややグロテスクな花材ですが、直線的ではなく動きのあるシルエットを作り出せるため、青山花茂では活け込みのシーンでよく使用しています。
錦木(ニシキギ)
シーズン:10月〜11月
山野や公園などに生え、コルク質の羽のような枝が特徴的です。その不思議な木肌の様子から別名「剃刀の木(カミソリの木)」とも呼ばれています。
青山花茂ではいけばな花材として、もしくは活けこみで使用します。生花店には実や葉が付いたまま入荷することが多いですが、荒々しい木肌の面白さをいかすため、活ける際にそれらを取ってしまうのが通例です。ただ、個人的にはニシキギは葉も実も美しいと思います。
白枝(シロエダ)
シーズン:11月〜12月
ひとくくりに「白枝」と呼ばれますが、多くがドウダンツツジの枝を白く塗ったものです。他にケヤキや白樺などの枝を白く塗ったものが「白枝」として流通している場合もあります。
暮れが近づく11月中旬から出荷が始まります。手軽にクリスマス感を演出できるので、短いものはアレンジメントや花束にも使われ、大きいものはこの時期活けこみでよく活用されます。
実を楽しむ枝もの
「秋は実りの季節」とも言うように、実をつけた枝ものが多く揃う時期です。これまでは葉やシルエットに着目してきましたが、この項では実の姿が魅力的な枝ものをご紹介します。
栗
シーズン:8月中旬〜9月上旬
栗は秋の味覚として知られますが、いけばなやフラワーデザインでも使われる実ものです。9月頃、茶色くなる前の少し青い状態の実がついた枝を、「秋の訪れ」を表現するものとして主に活けこみで活用します。近年流通しているサレヤロマンという品種は、枝に実が密集していて活けやすい花材です。
また、イガ栗だけをテーブルなどに置いて、装飾的に楽しむのも良いですね。
風船唐綿(フウセントウワタ)
シーズン:9月〜10月
柔らかいトゲの生えた風船のような果実の中に種子が入る、ホオズキのような構造の枝。個性的な実の形状で、活けこみで使うと必ず名前を聞かれる花材の一つです。
優しいグリーンの色合いが涼しげな印象を与える花材で、初秋のいけばなやフラワーディスプレイで使われています。
フォックスフェイス
シーズン:10月
秋に生花店やショップのディスプレイでよく見かける、この個性的な実をつけた枝もの。こちらは和名はツノナスといい、茄子の仲間です。実の形がキツネの顔に似ていることから、別名「フォックスフェイス」と呼ばれ、ハロウィンの装飾などで活用されます。
どことなくキツネの顔のように見えてきますよね。枝から実をとって飾るだけでも、愛嬌を感じさせてくます。
寄生木(ヤドリギ)
シーズン:12月
落葉したケヤキやブナなど背の高い木に、鳥の巣のような塊があるのを見かけたことはあるでしょうか。
それはヤドリギと言い、地に根を張ることなく他の樹木に寄生して生長する植物です。粘着性のある実を鳥に種子を運んでもらい、糞が樹木の枝に落ちることで他の木に寄生します。少量ですが冬に入荷があります。
冬でも緑を保つ常緑樹としてヨーロッパなどでは古くから生命力の象徴とされており、クリスマスシーズンの風物詩として愛されています。
野薔薇(ノバラ)
シーズン:赤いものは10月〜11月
ノイバラとも呼ばれ、日本全国の野山で自生します。初夏に小さな白い花を咲かせたあと、緑だった実が秋には赤く色づく様子を楽しむことができます。
生花店で見る一般的な洋バラの花は品種改良を繰り返したバラですが、野生種のノバラの花はそれとは全く違う見た目です。花の時期の流通はほとんどありませんが、赤い実が秋の人気花材として流通します。
ノバラをはじめその他の赤い実について詳しくは、以下の記事でご紹介しています。
参照:「秋から冬の季節、知っておくと楽しくなる赤い実のいろいろ。野ばら、山帰来、千両、南天など」
その季節ならではの枝ものをぜひお楽しみください
今回は紅葉する枝ものを中心に、秋冬がシーズンの枝もの・実ものをご紹介しました。
この記事に掲載の活け込み写真の枝ものは、広い空間に設えることをイメージして製作しているため大ぶりになりますが、ご自宅に飾る際は1本からでも季節の風情を豊かに演出してくれます。しっかりと安定する花瓶と枝切りはさみがあれば、初心者の方でも気軽にインテリアに取り入れることができるので、お近くの生花店で探してみてはいかがでしょうか。
これから冬が本格的になるシーズンでは、白枝やサンゴミズキのほか、ユーカリやコットンフラワー、ヒムロ杉やヒバなどの枝ものが店頭に並びます。
皆さまもぜひ、その時期ならではの枝ものをお楽しみください。
この記事を書いた人
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
ご挨拶ページへ>