吹く風は刺すように冷たく身を縮めて歩く日もあれば、暖かい日差しと気温の日もあり、まさに三寒四温の日々。少しずつ本格的な春の季節が近づいていますね。
四季に恵まれた日本では、季節が移り変わるたび、さまざまな樹木の姿を見ることができますが、1月〜3月の早春の季節と言えばどんな樹木を思い浮かべるでしょうか。多くの方が梅や桜、桃の花を思い浮かべることと思いますが、早春の頃に花をつける花木(かぼく)は非常に豊富で、私たちを楽しませてくれます。
この記事では、よく見かけるものからあまり目にしないものまで、生花店に入荷する早春の枝ものを、初級編・中級編・上級編と3つに分けて解説していきます。
流通期と開花時期の違い
それぞれの枝ものをご紹介する前に、生花店で購入できる時期(流通期)と実際の開花時期の違いについてご説明します。というのも、生花店に並ぶ枝ものは多くが開花調整されていて、戸外での開花時期と異なることがほとんどです。
早春の時期の代表的な3つの花木(かぼく)、梅、桃、桜の流通時期と、関東平野部での開花時期を表にしてみました。
梅、桃、桜の流通時期と開花時期の一覧表
その年の気候によって多少前後しますが、このように分類できます。
特に梅や桃に関しては、屋外で花が咲く頃には生花店での流通は終わっていることが多いため、開花期よりも先駆けて購入する必要がありますね。
次の章では、初級編・中級編・上級編に分けて、枝ものをご紹介していきます。
早春の枝もの<初級編>
初級編は目や耳にすることも多く、一般的に広く知られている枝ものとして、上の表で一覧化した、梅、桃、桜についてご紹介します。
この3種には、花色や咲く時期も異なるさまざまな品種があるのが特徴です。
特に早咲き・遅咲き品種も含めてバラエティに富む桜は、私たち日本人にとって最も身近に感じる枝ものと言えるでしょう。開花予報を伝えるニュースが流れ、“名所”と呼ばれる公園や花祭りには、毎年たくさんの方が訪れていますね。一方、屋外での開花に先駆けて生花店に入荷する梅・桃・桜は、伝統的にはいけばなのお稽古花材としての使用はもちろんのこと、アレンジメント・花束・活け込みなどでも多く使用されます。
梅
流通期:12月下旬〜1月中旬
開花期:1月中旬〜3月上旬
お正月の縁起物として促成栽培された切り花の梅は12月から出回ります。関東の平野部の屋外では早い品種でも咲き始めは1月中旬頃で、遅い品種は3月上旬頃に開花します。実をつける「実梅(みうめ)」は花梅(はなうめ)よりも開花が遅い傾向にあります。
梅といえばその香りの良さでも知られますが、白梅と紅梅は少し匂いが違うことも興味深い点です。
桃
流通期:2月中旬〜3月上旬
開花期:3月中旬〜4月上旬
桃は、花も実も邪気を払う効能のあるものとして、桃源郷や不老長寿の伝説などさまざまな古事をもつ植物。そのような謂れから、桃の花はひな祭りに飾られるようになりました。関東の平野部での桃の開花は3月中旬以降。先駆けて生花店に並ぶ桃は、ひな祭りの需要に合わせて生産者さんが促成栽培したものです。
桃の花について詳しくは、以下の記事で詳しく述べています。
桜
流通期:12月下旬〜4月中旬
開花期:1月中旬〜4月中旬(啓翁桜〜八重桜)
品種改良が盛んに行われた桜には、早咲きのものから遅咲きのものまで、さまざま品種があるため、長い期間にわたり花を楽しめる枝ものです。
多くの方が染井吉野をご存知と思いますが、それよりも早くから咲く啓翁桜や東海桜は12月から生花店で見かけることができ、2月には河津桜、3月は染井吉野や陽光桜、4月には八重桜が店頭に並びます。
早春の枝もの<中級編>
中級編は、一般の方でも見たことや聞いたことがある(と思われる)、比較的身近な6種類の枝ものをご紹介します。これらの枝ものは、それぞれ日持ちの良さや枝ぶりの良さもあって、私たち生花店にとっては、この時期なくてはならない品種ばかり。公園やお庭でも見られるものが多いので、知っていれば春のお散歩が楽しくなることでしょう。
木瓜(ボケ)
流通期:12月中旬〜3月中旬
開花期:3月中旬〜5月上旬
梅と同じくお正月の花材としてもよく使われるボケは、丸みのある花びらが印象的な花。朱赤が多いですが、ピンクや白の花色もあります。
動きに富んだ枝ぶりや、花もちの良さから、青山花茂ではお正月のアレンジメントや活け込みで頻繁に使用されます。いけばなでは、春の花の頃だけでなく、実がつく秋にも使われる馴染み深い枝ものです。
小手毬(コデマリ)
流通期:1月上旬〜3月下旬
開花期:4月中旬〜5月中旬
白くて小さな花が集まって咲く花姿が、小さな手毬(てまり)のように見えることが名前の由来となっているコデマリ。細い1本の枝にたわわに咲き、枝垂れるようなフォルムで、アレンジメントや活け込みで重宝する花材です。
公園などでもよく見かけますが、近年ではその見た目の可愛らしさから、お部屋に飾る方が増えている印象です。
蝋梅(ロウバイ)
流通期:12月上旬〜1月中旬
開花期:1月上旬〜2月中旬
他の花が少ない冬の寒い時期に、蝋(ロウ)を塗ったような質感の黄色い花を咲かせます。正月の花材としても古くから愛されています。
クセのない爽やかな香りも魅力の一つ。「ロウバイの香りが好き」という方も多く、庭木として植えられているのもよく見かる、比較的ポピュラーな枝ものです。
木蓮(モクレン)
流通期:1月中旬〜2月中旬
開花期:2月上旬〜2月下旬
木蓮のうち、白い花を咲かせる種を「白木蓮(ハクモクレン)」と言い、パープルピンクの花を咲かせる「紫木蓮(シモクレン)」や園芸種の「烏木蓮(カラスモクレン)」などもあります。
木肌やつぼみの見た目が似ている辛夷(コブシ)との見分け方は、全ての花芽が上に向かっているのはモクレンで、花芽が上下左右ランダムに向いているのがコブシと覚えると分かりやすいでしょう。
ツツジ
流通期:2月上旬〜5月上旬
開花期:4月中旬〜5月中旬
4月から5月に道路脇にピンクの花を咲かせるオオムラサキツツジやサツキツツジの印象が強いですが、ヤマツツジやミツバツツジなど、青山花茂にはさまざまな品種が入荷します。どの品種も枝に動きがあり花色も幅広いので、特に活け込みの材料として使うと映えます。
いけばな花材としては2月頃から促成栽培の品物が流通しています。
雪柳(ユキヤナギ)
流通期:1月上旬〜3月中旬
開花期:3月下旬〜4月下旬
1本の細い枝にたくさんの小さな白い花を次々と咲かせる、バラ科の落葉低木です。名前に「雪」と付いていますが、開花時期は3月〜4月。満開のユキヤナギは、まるで枝が雪をまとったかのようで、そのさまが名前の由来を彷彿とさせますね。
生育がよく丈夫なので、公園などでも見かける枝ものですが、生花店でもさまざまな用途で使われています。
早春の枝もの<上級編>
続いては、知る人ぞ知る、早春の枝もの上級編。花を趣味や仕事にしている人であれば必ず知っている8種ですが、一般に見る機会は少ない枝ものです。ただ、連翹(レンギョウ)や山吹(ヤマブキ)などは、春の里山では注意していれば必ず見かける花でもあります。
青文字(アオモジ)
流通期:12月上旬〜2月下旬
開花期:3月上旬〜4月上旬
黄緑色のつるっとした実のようなものをつけた枝を見たことはあるでしょうか。
それはアオモジといい、実のように見えるつぼみから淡い黄色の花を咲かせます。日持ちが良い春の枝物として重宝されます。熟した果実は爽やかな香りがあることから「ショウガの木」とも呼ばれます。同じクスノキ科のクロモジは枝が黒く、比較してこちらは緑のためアオモジと呼ばれています。
万作/満作(マンサク)
流通期:1月上旬〜2月下旬
開花期:1月下旬〜3月上旬
細長い花弁を開かせる不思議な花です。自生地では早春に他の花よりも早く咲くため「まず咲く」が花名の由来となっているという説があります。黄色だけでなく、オレンジや白の花(シロバナマンサク)も。
いけばなの世界では、花だけでなく秋に葉がついた枝を活けるなど、とてもポピュラーなのですが、花が少々グロテスクなので、アレンジメントや活け込みではなかなか使われにくい枝物です。
銀目柳(ギンメヤナギ)
流通期:1月上旬〜2月下旬
開花期:2月下旬〜4月上旬
ふっくらと銀の起毛した花穂が特徴的で、「ネコヤナギ」という名前を一度は耳にしたことはあるでしょう。
同じ種が、赤い皮に覆われたつぼみの頃(10月〜12月)は「赤芽柳」と呼ばれ、春が近づいて赤い皮がむけ銀色のモフモフとした花穂が出てきたら「銀芽柳」または「猫柳」と呼ばれます。枝ぶりは直線的ですが、弾力性があるので曲げて使うことも。
山茱萸(サンシュユ)
流通期:1月下旬〜2月中旬
開花期:2月中旬〜3月下旬
早春に小さな黄色い花を咲かせるサンシュユは、いけばな需要だけでなくホテルなどの活け込みでも好評です。
実はこの枝、ブルガリアで伝統的なヨーグルト製造に利用されていた「ヨーグルトの木」の近縁種であるため、枝に乳酸菌が含まれているそうです。温めた牛乳にサンシュユの枝を入れるとヨーグルトが作れます。実験してみるのもおもしろいですね。
連翹(レンギョウ)
流通期:1月下旬〜3月下旬
開花期:3月中旬〜4月中旬
レンギョウは、開花時期になると鮮やかな黄色い花を枝いっぱいに咲かせます。花が終わると緑色の葉が芽吹いた様子も素敵です。
植え込みに用いられることも多く、春になり満開の黄色い花姿を見て、それがレンギョウだったと気がついた経験をされた方は、筆者だけでなはいかと思います。花色の美しさや枝ぶりの良さから、出番の多い枝ものです。
土佐水木(トサミズキ)
流通期:1月下旬〜3月中旬
開花期:3月上旬〜4月上旬
その名前からも分かるように、主に土佐(高知県)の山地にのみ自生するマンサク科の落葉低木です。
枝から垂れ下がるように萌黄色の小さな花をつけるユニークな形状で、似た花に宮崎県原産とされるヒュウガミズキがあります。主にいけばなの世界でよく用いられてきた花材ですが、花の形が面白いので近年では生け込み用にも使われています。
山吹(ヤマブキ)
流通期:3月上旬〜4月中旬
開花期:4月上旬〜5月上旬
自生種は一重のヤマブキですが、八重咲きの「ヤエヤマブキ」や、白い花を咲かせる「シロバナヤマブキ」もあります。古くから枝ぶりの美しい花材として愛されてきました。
里山で咲く黄色い花を見かけた際、同じく枝が垂れて花が咲くレンギョウと混同しやすいですが、開花期が遅いことと、まさに山吹色の濃い黄色の花色で判別可能です。
花蘇芳(ハナズオウ)
流通期:2月下旬〜4月上旬
開花期: 4月上旬〜4月下旬
濃いピンク色の小さな花を、枝に密着するような独特な姿で花を咲かせるハナズオウ。染料の「スオウ」に似た色なのでこの名がついたそうです。枝ぶりは直線的ですが、この時期少ない濃いピンク色の花として、いけばな花材としては需要の多い枝。庭木としても見かけることがある花です。
青山花茂に入荷する早春の枝ものを、初級編・中級編・上級編と分けてご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。春は花木(かぼく)が充実する季節。お出かけ先や、ご自宅で、そのバラエティを楽しんでいただければ幸いです。
青山花茂でお取扱いの枝ものフラワーギフト
これまでにご紹介してきた枝ものは青山花茂の店頭でお取扱いをしていますが、年によって入荷時期にズレが生じることも多いので、事前にお問い合わせいただくことをおすすめします。
また一部の枝ものは、青山花茂のオンラインショップでご購入いただくことができます。
最近では、お部屋に枝ものを飾ってインテリアとして楽しむ方が増えていますね。一足早く春を呼び込むフラワーギフトとして、たくさんの方からご好評をいただいています。
桜の花束
ツボミをたくさんつけた桜の枝を花束にした、毎年人気のフラワーギフト。 品種は啓翁桜(ケイオウザクラ)または東海桜(トウカイザクラ)でお作りします。
大切な方へ「サクラサク」、春の便りを贈ってみてはいかがでしょうか。
桃と菜の花の花束
ひな飾りとともに飾っていただきたい桃と菜の花の花束。伝統的な花の取合せが、桃の節句を華やかに彩ります。桃の節句の贈り物としてはもちろん、誕生日や記念日などのお祝いにも季節感豊かなフラワーギフトと選ばれてみてはいかがでしょうか。
季節の枝ものを取り入れて、一足早い春をお楽しみください
今回は、早春の頃に見かける枝ものをご紹介しました。
これから本格的な春に向けて暖かくなってきて、気分も高揚する時期ですね。屋外の桜の開花はまだ先ですが、桜の枝ものを飾って一足早く春を楽しんでみてはいかがでしょうか。
青山花茂ではオフィスやショップ、個人さまのご自宅への活け込みのご依頼も承っています。出張もしくはお電話でのカウンセリングを実施し、インテリアや間取りに合う四季折々の花々や枝ものをコーディネートします。
皆さまもぜひ、その時期ならではの枝ものを暮らしに取り入れて、日本の四季をお楽しみください。
この記事を書いた人
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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