咲く花が少なくなる冬の時期に、お部屋に彩りを添えてくれるシクラメン。年末に購入した方や、お歳暮でいただいたという方も多いでしょうか。
シクラメンについて、青山花茂ではよくお客さまから「水やりの頻度や最適な置き場所は?」「来年も楽しめるように夏越しの方法を知りたい」というご相談をいただきます。
そこで今回は、産地へ訪問した際に伺った話をもとに、シクラメンの育て方のコツを詳しくご紹介します。
目次
シクラメンの生産地を訪問してきました
秋が深まってきた11月中旬。シクラメンの主要な仕入れ先である栃木県の生産地を訪問しました。
青山花茂とは何十年も前からお付き合いのある、確かな実績を持つ生産者さんです。今年も、シクラメンの生育状況の確認と来年のラインナップに含める新品種の候補探しのために、ハウスの中を見せていただきました。
ハウスでのシクラメンの管理方法
ハウス内には、ピンクや紫、黄色などさまざまな品種のシクラメンが並んでいました。
日本では冬に花が咲くイメージから、シクラメンは寒さに強い花と認識している人が多いかもしれませんが、原産地は北アフリカから中近東、ヨーロッパの地中海沿岸。夏は高温でも湿度が低く、冬も比較的温暖な地域です。
そのため、実際のところシクラメンは、春や秋のような過ごしやすい気候が適しているのだそうです。(ただし、花は暑さには弱いので暖房の効いた室内での管理はおすすめしません。)
ハウスの中の設備を見てみると、夏の暑い日差しを避けるための日除け、風通しや温度を調整するための自動開閉の窓や暖房器具など、シクラメンにとって快適な環境を整えるしくみがいくつもありました。
朝は夕方よりも少し低めの気温設定にするなど、1日の時間帯によっても好ましい温度が異なるそうで、上質なシクラメンを作るためのしっかりとした管理体制がうかがえました。
美しい形のシクラメンを作る葉組み
いくつかのシクラメンの花の周りには、リングのようなものがついています。これは「葉組み」という、シクラメンの葉を組み直す作業に使用するものです。
咲いてきた花芽をこのリングの中に入れ、中央部から顔を出した葉はリングの外側に出します。こうすることにより、球根の頭頂部に日光が当たり、花芽が活性化して花が咲きやすくなるそう。リングを置いておくことによって、外側に出した葉が元に戻らないで固定され、中央に花芽が集まる美しい姿を作るという狙いもあります。
葉組みはとても繊細な作業のため、全て手作業です。この生産者さんでは、ひと鉢のシクラメンに対して少なくとも3〜4回程度は葉組みを行うそうです。6号鉢などの大きなシクラメンの場合は、合計6〜7回になる場合もあるそう。
それぞれの鉢の生育状況を日々観察し、適切なタイミングで葉組みを行います。花芽が豊富で、全体の形が整ったシクラメンを作るためは、ひとつひとつの鉢に合わせた丁寧な作業が必要不可欠なのです。
私たち生花店の元へと届くシクラメンの美しく咲く姿は、生産者さんの努力があってこそ。丹精込めて育成する生産者の方々の手間暇を惜しまない姿勢に感銘を受けました。
ご自宅でシクラメンを育てるコツ
美しいシクラメンをより長く楽しむために、気になるのはご自宅での育て方ですよね。ここでは、青山花茂のお客さまからよくご質問をいただく、シクラメンを育てる上でのポイントをいくつかご紹介します。
シクラメンの最適な置き場所
シクラメンの最適な置き場所をひとことで表すと「気温差が少ない室内の、レースのカーテン越しの柔らかな光が当たる窓辺」です。
シクラメンを環境に慣れさせるために、置き場所はコロコロ変えず、できるだけ同じ場所に置くのが望ましいです。暖かすぎる環境も良くないため、エアコンや暖房の風が直接当たらないように注意しましょう。
シクラメンの水やり・ベストなタイミング
水やりについては、何日に1回と頻度を決めるのではなく、その鉢を観察して水を欲していたらあげることが大切です。基本的には、以下の2つの観点から水やりのタイミングを見極めることができます。
- 土の表面が乾いたら
- 鉢の重さが軽くなったら
初心者の方は「葉をかき分けて土の表面を触り、渇いていたら水をあげる」というやり方が分かりやすいかもしれません。土が乾いていることを確認したら、鉢底から水が流れるまでたっぷりと水をあげましょう。
慣れている場合、「シクラメンの鉢を持ち上げてみて、軽かったら水をあげる」という方もいらっしゃるでしょう。青山花茂でも、この方法で水をあげています。
シクラメンだけではなく、他の鉢植えにも言えることですが、水のやりすぎで鉢の中の水分が飽和した状態が続いていると、根が腐って枯れてしまうことがあります。
人間も満腹(もしくは空腹)がずっと続くと苦しいですが、適度なバランスが取れていると快適で健康的ですよね。シクラメンも同じように、「湿潤・適度・乾燥」のトライアングルが循環する状態が、健康に育つためには好ましいのです。
シクラメンの花がら摘み・枯葉取り
シクラメンの花が咲き終わったら、根本から花がらを摘みましょう。花がらを残しておくと、新しい花芽に栄養が行き届かなくなってしまいます。枯れてしまった葉も同様に根本から取り除きましょう。シクラメンの茎は引っ張ると簡単に摘むことができます。
シクラメンの肥料の与え方
花が次々と咲く期間は、鉢花用の液体肥料を月に2回程度あたえると、より花付きがよくなります。
しおれてしまったシクラメン、復活させる方法は?
水やりを数日怠って葉や花がしおれてしまったときは、紐や新聞紙などで花を束ね、上部に固定した後、20℃程度の微温水をたっぷりあげて回復させます。詳しくは、こちらの記事でご紹介しています。
参照:シクラメンがしおれる原因とは?すぐに復活させる方法をご紹介
シクラメンを来年も咲かせたい・夏越しの方法は?
シクラメンは多年草のため、上手に育てれば2年目以降も花を楽しむことができます。ここでは、シクラメンをより長く楽しむための夏越し方法についてご紹介します。
シクラメンの夏越しには、葉を取り除いて球根のみにする「休眠法(ドライタイプ)」と、葉をつけたまま管理する「非休眠法(ウェットタイプ)」の2つがあります。
シクラメンの休眠とは?
シクラメンの原産地は、雨季と乾季がはっきりと分かれている地域です。そのため、野生のシクラメンは雨季に花が咲き、乾季には休眠する性質を持っています。
原産地では「涼しい雨季」が開花期となり、日本では冬にあたります。一方、「暑い乾季」は日本では夏にあたります。
日本の夏は、高温で湿度も高くなるため、シクラメンにとってはよりシビアな環境です。シクラメンを休眠させる場合には、湿度にも十分注意しましょう。
シクラメンの夏越し方法①休眠法(ドライタイプ)
上手に育てていただければ春頃まで花を楽しめるシクラメンですが、6月に入り気温が高くなってくると、花が終わり、古い葉が黄色く変色して枯れてきます。このような状態になってきたら、休眠のタイミングです。ここでは、休眠法の手順をご紹介します。
1.残っている葉を全て取り除く
残っている葉は根本から手で取り除きましょう。ナイフやハサミを使うよりも、手を使った方が茎の切り口が大きくならずに雑菌の繁殖を抑えることができます。
※このステップを省き、水やりを止めて葉を全て枯らす方法もあります。
2.球根を乾かして休眠させる
球根のみの状態になったら水やりを止めて、鉢土を乾燥させます。
完全に乾いたら、北側の軒下など涼しい場所に置きましょう。この期間に水がかかると球根が腐ってしまうので、雨が当たらないように注意が必要です。
3.夏が終わったら水やりを再開する
9月中旬から10月頃など、気温が下がってきたら水やりを再開します。2〜3年目以降の夏越しで、鉢の根が詰まってきた場合は水やりを再開する前に植え替えを行いましょう。
水やりを再開した後、しばらく経って球根から白い根が出てきたら、休眠は成功です。秋には戸外でよく日にあて新芽を出し、寒くなったら日当たりのよい室内に置きましょう。
休眠法は、球根を腐らせるリスクは低いですが、後ほど紹介する非休眠法に比べ開花期が1カ月程遅くなるため、花を楽しめる期間はやや短くなります。
青山花茂公式インスタグラムでも、弊社社長・北野がシクラメンの休眠方法をご紹介しています。
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シクラメンの夏越し方法②非休眠法(ウェットタイプ)
6月頃、葉が10枚以上残っている場合は「非休眠法」もおすすめです。土を完全には乾かさずに管理するため、ウェットタイプとも呼ばれます。
病害虫や根腐れに気をつけながら、水やりを続ける手間はかかりますが、成長を止めないので株が大きくなり、10〜11月頃の早いタイミングから花が楽しめるというメリットがあります。
休眠や水やり再開のタイミングを計る必要がある休眠法に比べて、ただ水をあげ続けるだけの非休眠法の方がシンプルなので、特に初心者の方にはおすすめです。
非休眠法の手順
鉢は屋外の風通しのよい場所に置き、土が乾いたタイミングでたっぷりと水をあげることを繰り返します。液体肥料は月に2回程度与えます。
8月下旬頃になると、葉柄の付け根に、新しいつぼみを持った花芽が出てきます。植え替えを行う場合は、9月中旬頃までに行うと良いでしょう。
育て方のコツを押さえて、シクラメンの花をお楽しみください
色鮮やかな花が少なくなる季節に、たくさんの花を咲かせるシクラメン。育て方次第で花を長く楽しめる点も嬉しいですよね。ぜひ、皆さまも育て方のコツを押さえて、シクラメンの美しい花姿をお楽しみいただければと思います。
青山花茂本店では、シクラメンのフラワーギフトについてのお問い合わせだけではなく、育て方に関するご相談も可能です。どうぞお気軽にお問い合わせください。
電話:03-3400-0871
この記事の監修者
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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この記事を書いた人
青山花茂本店
東京・表参道にある宮内庁御用達の生花店です。花一輪一輪を大切にお作りしたアレンジメントや花束、名人達が丹精こめて育てた蘭鉢や花鉢など、最高品質のフラワーギフトを全国へお届けしています。1904年の創業時より培ってきた、花の知識やノウハウを綴っていきます。
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