毎年、梅雨の時期に見頃を迎えるアジサイ。雨に濡れた姿が一層美しい、日本の初夏の風物詩です。この時期に先駆けて、早ければ4月の下旬頃からアジサイ(=ハイドランジア)の鉢植えが生花店やホームセンターにたくさん並びます。
アジサイの鉢植えは初心者でも育てやすそうなイメージがありますが、実は他の花に比べて頻繁に水やりが必要など、いくつか注意すべきポイントがあります。
そこで今回は、青山花茂のシニアバイヤーに聞いた、アジサイの育て方のコツや、購入時の良いアジサイの選び方についてご紹介します。
目次
アジサイ?ハイドランジア?どちらが正しい?
「ハイドランジア」という名称でアジサイが売られていることを目にすることも多いでしょう。ハイドランジア(Hydrangea)とは、広義のアジサイである「アジサイ属」の総称で、ガクアジサイやノリウツギやカシワバアジサイなど、「アジサイっぽい花」も含めたグループです。
皆さんが想像する玉のように花が集まって咲く市販のアジサイは、正確にはセイヨウアジサイ(Hydrangea macrophylla)という花で、日本の原種アジサイを欧米で品種改良したものです。
従って、「西洋アジサイ」や「ハイドランジアマクロフィラ」という呼び方が正確ですが、それらの上位概念の「アジサイ」・「ハイドランジア」のいずれも正しいといえます。
母の日の贈り物としても人気の高いアジサイの鉢植え
母の日に贈る代表的な花といえばカーネーションですが、近年では「他の花を贈りたい」「育てることを楽しめる鉢が良い」という声もあり、アジサイの鉢植えを母の日のギフトとして選ぶ方が増えています。
カーネーションの鉢植えは一般的にその年限りで花が終わってしまいますが、アジサイは適切に管理すれば翌年以降も花を咲かせることができます。鉢植えでも長く育てることができますが、地植えにした方が水切れなどが起こりにくく、管理がしやすくなります。アジサイは育てる楽しみも感じられるため、園芸好きなお母さまへのプレゼントにはアジサイの鉢植えがおすすめです。
アジサイの鉢植えを贈る側も贈られる側も、来年以降も美しい花を楽しめるよう、アジサイのお手入れ方法を覚えておくと良いでしょう。
アジサイの鉢植えの基本的なお手入れ方法
1.置き場所
開花中のアジサイは、直射日光を避け、日当たりの良い半日陰で管理しましょう。
風通しの良い場所がおすすめなので、縁側やベランダなどできるだけ屋外で管理したいですが、届いて2〜3日程度は室内で鑑賞しても問題ありません。
2.水やり
梅雨の時期に咲くアジサイは、雨のイメージの通り、水がとても好きな花です。水を好み、乾燥を苦手とするため、水やりを怠ると花の生育状況が悪くなったり、枯れてしまったりすることがあります。
鉢植えの場合は、土の表面が少し乾いてきたら、花を避けて株元にたっぷりと水を与えましょう。受け皿に溜まった水は必ず捨ててください。
底面給水鉢の場合、給水用のひもが伸び、鉢底の水を給水ひもから植物に与える構造です。そのため、水がなくならないよう注意し、常に鉢底に水をためておいてください。
また、花が終わった後も水やりを欠かさないでください。
肥料は、開花中は不要です。生育期間である3月頃から開花までは、月に1回ほど緩効性の固形肥料を与えてください。
来年もアジサイの鉢植えを楽しむための剪定と植え替え
ここまで、アジサイの基本的なお手入れ方法である置き場所や水やりについてご紹介しました。
次は、鉢植えのアジサイを来年も美しく咲かせるために欠かせない、剪定と植え替えについてご説明します。
1.剪定
アジサイは剪定をしないと、見た目だけでなく花つきや新芽の生育にも悪影響を及ぼします。そのため、美しい花を咲かせるためには剪定が必要不可欠です。
アジサイ(広義のアジサイ)には大きく分けて新枝咲きと旧枝咲きの2種類があります。
新枝咲きは、今年伸びた枝に花芽をつけるタイプで、品種としてはアナベルやノリウツギがあります。
一方、旧枝咲きは、前年に伸びた枝に花芽をつけるタイプで、セイヨウアジサイやガクアジサイなどがこれに当たります。
多くのアジサイは旧枝咲きなので、ここでは旧枝咲きの剪定方法をご紹介します。
剪定は花が終わった7月中に、葉のついているところを1~2節残してカットします。脇芽ギリギリで切ってしまうと、上手く成長しない場合があるため、脇芽から1~2cm上を切るようにしましょう。
剪定した花は、花瓶などに活けて切り花として楽しんでいただくこともできます。
2.植え替え
購入した年は、剪定後に植え替えを行います。
まず、鉢底から株を持ち上げ、根を崩さないように優しく土を落としながら鉢から取り出します。
そして、地植えにする場合はそのまま土に植え、鉢を変える場合は一回りから二回り大きな鉢に新しい土を入れ、株を植え替えます。
地植えの場合はそのままでOKですが、鉢植えの場合は1〜2年に一回を目安に休眠期となる11〜2月頃に植え替えを行いましょう。
このように剪定と植え替えを行うことで、夏には葉が茂り、落葉して越冬し、翌春に成長して初夏に開花します。
良いアジサイの鉢植えの選び方
長く美しいアジサイを楽しむためには、適切に管理するだけでなく、購入時に良い株を選ぶことも重要です。青山花茂のシニアバイヤーがおすすめする良いアジサイの鉢植えの選び方をご紹介します。
1.茎が自立している
丈夫なアジサイは茎がしっかりとして自立しています。一方、茎がばらけていたり倒れかけていたりするアジサイは、茎が弱い可能性があります。
もともと茎が柔らかい品種もありますが、そのような場合でも支柱やリングなどでしっかりと支えられているものは、問題なく花を楽しむことができます。
2.花序が大きく立派
生産者によって丁寧に育てられたアジサイは、水やり、肥料、温度管理などが適切に行われているため、花序(花のかたまりの部分)が大きくバランス良く育ちます。
ただし、品種によっては元々花序が小ぶりなものもあるため、選ぶ際には品種の特徴も考慮する必要があります。
3.葉の色が濃い
アジサイに限らず、光合成が活発で、栄養が十分に行き渡っている植物の葉は、(同品種のものと比べて)濃い緑色になります。これは、葉の葉緑素が十分に蓄積されているため、本来の葉の色が鮮やかに表れるからです。
葉の色は、植物の健康状態を知る一つの指標ですので、葉の色にも注目し、(同品種のものと比べて)濃い緑色のものを選ぶようにしましょう。
上記の条件を満たしているアジサイの鉢植えは、丁寧な管理によって育った丈夫な株といえます。購入する際は、これらのポイントに注目してみてください。
アジサイの花色が変化する仕組み【番外編】
丁寧にお手入れをしていたはずなのに、アジサイの花色が抜けてしまったというご相談をいただくことがあります。これは、アジサイが日光や土壌などの環境によって花色を変える性質を持つために起こることで、花色が変化していくことはごく自然なことなのです。
アジサイは、最初は淡いグリーンの花を咲かせ、その後品種や環境によってさまざまな色に変化していきます。さらに時間が経つにつれてだんだんと色が抜けていき、最後は濃いグリーンに変化するといった具合です。
また、多くの方がご存知のように、アジサイは土壌の酸性度によっても花色を変える性質を持っています。アジサイの花色は、酸性の土壌では青みが強くなり、アルカリ性の土壌では赤みが強くなるとされています。これは、アジサイの花に含まれるアントシアニンと土壌に含まれるアルミニウムの化学反応が関係しています。
詳細について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
参照:「アジサイの花色はなぜ変わる?花色が変わる仕組みと鉢植えを長く楽しむお手入れのコツ」
このようにアジサイの花色の変化はとても複雑で、土壌の酸性度や、品種の特性、水分量などのさまざまな要素によって、次第に花色が変化していきます。購入した当初の色から変化していくのも、アジサイの魅力の一つです。時間の経過とともに移ろいゆく花色を愛でながら、日々のお手入れを楽しみましょう。
アジサイのお手入れを楽しみながら、美しい花を長くご鑑賞ください
今回は、アジサイの鉢植えのお手入れ方法についてご紹介しました。
アジサイは、適切にお手入れすることで、来年も再来年も楽しめる花です。この記事でご紹介した方法を実践していただければ、きっとアジサイの鉢植えを長く楽しめることでしょう。
アジサイを贈り物としてお渡しする場合は、ぜひお手入れのコツも一緒に伝えてみてください。お相手もきっと喜んでくれることと思います。
この記事の監修者
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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この記事を書いた人
青山花茂本店
東京・表参道にある宮内庁御用達の生花店です。花一輪一輪を大切にお作りしたアレンジメントや花束、名人達が丹精こめて育てた蘭鉢や花鉢など、最高品質のフラワーギフトを全国へお届けしています。1904年の創業時より培ってきた、花の知識やノウハウを綴っていきます。
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