夏はどうしても花の種類は少なくなり、通年で楽しめる花も日持ちが短くなってしまう季節。そんな時期には、涼を感じさせる枝ものをおすすめします。
近年では長く楽しめて枝ぶりも美しいドウダンツツジの人気が圧倒的ですが、ドウダンツツジから枝ものワールドに入った方にも試していただきたい種類がいくつもあります。
今回は、初夏から夏に流通する枝ものを紹介します。
葉や実を楽しむものが多い夏の枝もの
春に花を咲かせる植物が多いのはご存知の通りで、花を咲かせたのち、初夏に新芽を伸ばし、盛夏には葉を茂らせ、実をつけるというサイクルが一般的です。従って夏の枝ものは、葉を楽しむドウダンツツジやキイチゴ、実を楽しむノバラなどがポピュラーです。鑑賞のニーズとしても、緑の涼やかさを楽しみたい気持ちが高まる季節でしょう。
一方で、初夏から夏に花を咲かせる植物があるのも事実。特にアジサイやビバーナムなどのグループや、5月のヤマボウシや6〜7月のナツツバキなど、花木(かぼく)と呼ばれる枝ものも流通しています。
それらの枝ものを、「日持ちの良いもの」「日持ちはそこそこのもの」「実を楽しむもの」に分類しました。
日持ちの良い夏の枝もの
1.ドウダンツツジ(満天星躑躅)
シーズン:グリーンのものは5月〜9月
皆さまご存知、枝ぶりの良さと日持ちの良さから大人気のドウダンツツジ。葉を楽しむ枝ものです。
初夏の出始めは葉が萎れやすいですが、6月頃になると葉が固まり、2週間から3週間楽しめる優秀な枝もので、これよりも人気のある夏の枝ものを知りません。
ドウダンツツジについて、以下の記事で詳しく説明しています。こちらもご覧ください。
2.アセビ(馬酔木)
シーズン:通年
ドウダンツツジに匹敵するほど日持ちが良く枝ぶりも面白い枝ものとして人気の高いアセビ(アセボ・アシビとも)。常緑なのでほぼ通年入手可能です。葉に含まれる毒が「馬酔木」という漢字の由来。
アセビにも園芸品種がいくつかあり、垣根に使われるような大ぶりな葉よりも、2,3cmの小ぶりな葉が密集したものが枝ものとしては高値で取引されています。
3.スモークツリー
シーズン:6月〜7月前半
和名を「ケムリノキ(煙の木)」と言い、ふわふわとして煙を巻き上げているように見えることから、この名が付けられました。独特の見た目と、ボリュームを出せる点、そして何より日持ちが良いことから、人気が高まりつつあります。
スモークツリーについて、以下の記事で詳しく説明しています。こちらもご覧ください。
4.ビワ(枇杷)
シーズン:5月〜10月
枝の曲がりと個性的で大型な葉を楽しむ枝もので、日持ちもするので活け込みで扱いやすい花材です。常緑なので通年で入荷可能ですが、冬場はあまり入荷せず、主に夏を表現するものとして使われている印象です。
また、6月頃に成る食用の実がポピュラーですが、実つきで使うことは多くなく、枝ものとしては、むしろ実が終わった夏場が最盛期です。
5.ガマ(蒲)
シーズン:6月〜8月
ソーセージのような不思議な形の穂(雌花序)が印象的なガマ。川沿いなどでよく見られる珍しくない植物ですが、2mほどになる背丈を活かして、夏の活け込み花材として使われます。
葉の幅の太いオオガマと、細いヒメガマの2種類が主に流通しています。
6.カクレミノ(隠蓑)
シーズン:6月〜10月
手のひらほどの大きな葉を密集させる様子からその名がついたと思われます。枝ぶりには特段妙味がないので、人気は高くありませんが、日持ちも良く空間を埋める枝として有用な印象があります。
常緑なのでほぼ通年入荷可能ですが、主に流通するのは夏です。
日持ちはそこそこの夏の枝もの
7.キイチゴ(木苺)
シーズン:グリーンのものは3月〜9月
赤子の手の平のような姿から「ベビーハンズ」という商品名でも流通しているキイチゴの葉は、品種名を「カジイチゴ」という日本全国の野山で自生する樹木です。
いけばなでも古くから使用され、フラワーアレンジや花束でも頻繁に使用される知名度の高い枝で、早いものだと3月頃から小さな葉の状態で出荷され、7月・8月頃には大きなグリーンの葉で流通します。10月になると色づいたものが出回り、紅葉木苺(コウヨウキイチゴ)の名で呼ばれます。
8.ユキヤナギ(雪柳)
シーズン:グリーンのものは3月〜9月
雪柳は、春は白く可憐な花を、初夏から夏は青々しい葉を、そして秋は紅葉を楽しむことができるので、どの生花店でもよく見かけるポピュラーな花材です。
春の花と紅葉状態のものが人気がありますが、枝の曲線が程よいので、爽やかな夏の枝ものとしても重宝されています。
9.ヤマボウシ
シーズン:5月
5月に白い花を咲かせる街路樹としてご存知の方も多いのではないでしょうか。花をつける枝ものが少なくなる初夏の貴重な花木(かぼく)です。
白い花は外周が茶色になりやすく、切り枝にしてからの鑑賞期間は決して長くはありませんし、枝ぶりも直線的で上手に活けるのが難しいですが、星型の花が密集して咲く姿のファンも多い枝ものです。
10.枝アジサイ
シーズン:6月
茎の短いアジサイは輸入物も含めて通年ありますが、「枝もの」「花木(かぼく)」と呼べる、木質化した茎の長いアジサイは国産物が出回る6月のみ。紫・青・ピンク・白などの品種があり、長い物だと100cmを超えるものも流通しています。
アジサイついて詳しくは、以下の記事でご紹介しています。
11.セイヨウノリウツギ(ピラミッドアジサイ)
シーズン:7月
日本原産のノリウツギが「ミナヅキ」に品種改良され、19世紀後半に欧州に渡り、さらに改良されて産出されたのがセイヨウノリウツギです。ピラミッドアジサイという別名の由来ともなった綺麗な円錐形の花序で、原種のノリウツギよりはだいぶ花付きが良くなっています。
7月頃に長めの枝で入荷するので、活け込みなどで使われています。
12.ビバーナム・スノーボール
シーズン:3月〜12月
小さな玉のようなグリーンの花が可愛らしいので人気も高く、夏の数少ない花木として生花店でも重宝されています。これをアジサイの一種だと思っている方が結構いらっしゃるのですが、ビバーナム・スノーボールは、ガマズミ属の一種の「ヨウシュカンボク」の園芸品種です。「Viburnum」は英語でガマズミの意味です。
かつては水を吸いにくい花材だったのですが、生産者さんの努力で、日持ちが良くなってきています。
10.枝アジサイ、11.セイヨウノリウツギ、12.ビバーナム・スノーボールなど、アジサイやその仲間について、以下の記事でもご紹介しています。
13.ナツハゼ(夏櫨)
シーズン:4月〜9月
夏から紅葉し、枝ぶりも素敵な枝ものとして、いけばなでは広く利用されてきたポピュラーな枝ものです。
同じナツハゼでも、関東以北では主に葉の大きいもの(通称ゴンスケナツハゼ)、中部以西では葉の小さいもの(ホンナツハゼ)が流通しています。これはそもそも種が異なっていて、葉の小さいホンナツハゼはナツハゼではなく「スノキ」や「オオバスノキ」という種だそうです。
14.ナツツバキ(夏椿)
シーズン:6月〜7月
椿によく似た白い花を咲かせる花木で、サルスベリのようなツルツルの樹皮が特徴。沙羅の木(シャラノキ)の別名もあります。この夏椿も、少し小型の花を咲かせるヒメシャラも、街路樹や庭木としても植えられているのを見かけます。
花の日持ちは決して長くはないので扱いは難しいですが、風情はあるので、夏の茶花などで重用されます。
15.ナナカマド(七竈)
シーズン:グリーンのものは4月〜7月
いけばな業界では雷電(ライデン)とも呼ばれ、まだ青い春先の頃から「芽出しナナカマド」として使われます。特に初夏までの葉が柔らかい頃は水切れを起こしやすいところが難点ですが、爽やかなビジュアルが愛されています。
ナナカマドの名前の由来は「とても燃えにくく、7回かまどにくべても焼け残るため」という説があり、海外では火除けの木として親しまれています。秋に紅葉したものも流通します。
実を楽しむ夏の枝もの
16.ブルーベリー
シーズン:5月〜6月
ブルーベリーは食べるだけでなく、花の業界では、熟す前の若い実がついた状態で枝ものとして鑑賞されます。花木の少ないこの時期に新緑と実を楽しむ枝ものとして生花店に並びます。
長いものだと100cmを超えるものも流通し、この時期の花材としてポピュラーな枝ものです。
17.ジューンベリー
シーズン:6月
ブルーベリーほどの小さな赤い実を6月につける樹木で、程良くばらついた樹形も良いので、夏の枝ものとして一定量の流通があります。
実は食用も可能なので、庭木として植える方も増えているようです。
18.ビバーナム・コンパクタ
シーズン:黄色のものは6月〜8月
夏には黄色の実をつけて流通し、秋には実が赤くなるビバーナム・コンパクタ。ガマズミ属の一種の「ヨウシュカンボク」の園芸品種で、「カンボク」の名でも流通することがあります。
「Viburnum」は英語でガマズミの意味です。
19.サンキライ(山帰来)
シーズン:グリーンのものは5月〜7月
サンキライ(山帰来)は、クリスマスシーズンの赤い実として有名かもしれませんが、夏の頃からすでにグリーンの実が出回っており、つる性の枝の動きが好まれるのでアレンジメントや花束に使われています。
本来のサンキライは中国に自生している別の品種で、国内で流通しているサンキライは、サルトリイバラ(猿捕茨)という名前が正しい植物名であることはあまり知られていません。
20.ノバラ(野薔薇)
シーズン:グリーンのものは7月〜9月
ノイバラとも呼ばれ、日本全国の野山で自生します。初夏に小さな白い花を咲かせたあと、緑の実が成った頃に流通します。枝ぶりがとても面白いので、夏の枝ものとしてはかなりの流通量を誇ります。
生花店で見る一般的な洋バラの花は品種改良を繰り返したバラですが、野生種のノバラの花はそれとは全く違う見た目です。秋になって赤くなった実の方がポピュラーかもしれません。
19.サンキライ、20.ノバラをはじめとする赤い実について、詳しくは以下の記事でご紹介しています。
参照:「秋から冬の季節、知っておくと楽しくなる赤い実のいろいろ。野ばら、山帰来、千両、南天など」
夏の枝ものの楽しみ方
夏にもたくさんの枝ものが存在すること、お分かりいただけたでしょうか。花が日持ちしにくい夏こそ、枝ものを楽しんでいただきたいと思います。
ただ、夏はどうしても水が劣化しやすい季節。花瓶に入れる前の下処理、できる限りの水換えを、いつも以上に意識していただくと、長く楽しめます。
以下に、ドウダンツツジを例に管理方法をご紹介しています。他の枝ものも多くがこの手法で日持ちを良くできるので、参考にしてみてください。
空間を涼やかに彩る、夏の枝もの
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その季節ならではの枝ものをインテリアに取り入れて、四季の移ろいを感じてみてください。
この記事を書いた人
株式会社青山花茂本店 代表取締役社長
北野雅史
1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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